「書評」みどりの戦略策定で再評価 「有機農業大全」(澤登早苗・小松崎将一)
2021.12.30
「有機農業大全ー持続可能な農の技術と思想ー 澤登早苗・小松崎将一編著 日本有機農業学会監修」(コモンズ)は、2019年12月に日本有機農業学会の創設20周年を記念して出版された専門書で、332ページもある大著なのに3版を重ねている。
21年5月に農林水産省が「みどりの食料システム戦略」を策定、有機農業の拡大を目標に掲げたことで、本書が再評価されている。農水省の戦略を評価するためには有機農業に対する理解が不可欠で、本書は必読の「バイブル」というわけだ。
「大全」のタイトルにふさわしく、この1冊で日本の有機農業の歴史や構造を全般的に理解できる。日本では有機農業の普及が進んでいないが、本来は優れた技術を持ち、持続可能な農業として有機農業を位置付ける先見性を備えていた。
執筆は研究者だけでなく政策担当者、ジャーナリスト、各地で有機農業を実践している生産者らと幅広く、日本有機農業学会が総力を挙げてまとめた。
特に第8章「有機農業と地域づくり」は、有機栽培米を学校給食に導入している千葉県いすみ市のルポなど、各地の最近の動きを盛り込んでいる。同章の執筆陣の1人である大江正章氏は、残念ながら20年12月15日に他界したが、本書を出版するコモンズの代表(当時)でもあり、本書の隅々に同氏の有機農業に対する情熱と本書を世に送り出すための尽力を感じる。(3300円+税)