牛舎なしの「山地放牧」に挑む 飼料は野草、山も管理 「食と農の邂逅」AFCフォーラム 2021年6月号から
2021.06.11
山地(やまち)放牧とは、自生する野シバ(やしば)などの野草を飼料に使う畜産業だ。乳牛が中心のため山地酪農とも言う。下草刈りの作業が省けて山の管理が容易になり、家畜の糞を肥料として育つ野シバは強い根を張って山崩れを防ぐ。放牧された牛は、太陽の下で自由に歩き回り、自由に草を食べストレスが少ない。健康に育った牛は高品質の乳を提供してくれる。
傾斜地が多い中山間地を有効利用でき、飼料自給率を高め、牧歌的な美しい景観を維持できる。持続可能性という点では理想的だが、生産効率が悪いため実践している農家は全国で数件と言われ、全く普及していない。ほとんどの酪農は、牛舎の中で穀類を中心とした安価な輸入飼料を与えて育てているのが実態だ。
経営面でハードルの高い山地放牧を、神奈川県で実践している酪農家がいることを日本政策金融公庫の月刊誌「AFCフォーラム」(2021年6月号)の「食と農の邂逅」で知って驚いた。首都圏でしかも移住してきた新規就農の女性ということに二度驚いた。
花坂薫さんの「薫る野牧場(Kaoruno Farm)」(同県山北町)に牛舎はない。通年で放牧し、自生する野シバで育つ。搾乳について「仔牛が飲んだ後のおすそ分け」と語る花坂さんの言葉に感動を覚える。