地方からコロナの壁に風穴を開ける 季刊地域2020年秋号(農山漁村文化協会)から
2020.11.02
ふるさとを持つ都会暮らしの人たちには、そろそろ決断しなくてはならない悩み事がある。年末年始に帰省するかどうかだ。特に学生や単身者にとって、新型コロナの感染拡大前まで、盆暮れにふるさとに帰って家族、親類、旧友と過ごすのは当たり前だった。しかし春の連休は緊急事態宣言と重なり、お盆シーズンは自粛ムードが強かった。
目下、政府の観光支援事業「Go To トラベル」にあおられるようにして旅行が急増しているが、高齢の祖父母らへの感染リスクを考えると、二の足を踏む人もいるだろう。アルバイトや仕事がなくなった人にとっては、往復の交通費の負担も重い。しかし、いくつかのふるさとは、そんな人たちを見捨てないだろう。
農山漁村文化協会の「季刊地域」2020年秋号は、「地方からコロナの壁に風穴を開ける」という特集で、地方の自治体や民間非営利団体(NPO)が、帰省を自粛した学生たちを支援する活動を紹介している。
村出身の学生が無料でPCR検査を受けられるようにした福島県平田村の澤村和明村長の談話や、コメや手作りマスクなどの支援物資を学生に送り届けた新潟県燕市の鈴木力市長の手記には、「帰っておいで」「故郷はいつでも帰ることができるあたたかい場所だよ」「でも今はね」という優しさがあふれている。
山口市阿東地福のNPO「ほほえみの郷トイトイ」の高田真一郎事務局長は、タブレットを持参して高齢者の家庭を訪問して都会の若者とつなぐ「オンライン帰省」を報告している。こうした活動は、間違いなく田園回帰や移住につながっていくだろう。
年末年始の帰省を自粛する人たちに、ふるさとからどのような呼び掛けができるだろうか、特集に収められた多くの事例はとても参考になる。そして、都会の人はどのような形でふるさとに応えることができるのだろうか。そんなことを考えさせる特集だ。(2020年10月5日発売、税込943円)