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種は守れるか(日本農業の動き 207)  農政ジャーナリストの会

2020.10.08

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 政府は10月26日召集の臨時国会で種苗法改正を目指しているが、相変わらず賛否の議論がかみ合っていない。その理由の一つが、種苗法そのものに対する理解が不十分なまま、ソーシャルメディアなどを通じて「日本のお米が消える」「中国や韓国が日本の品種を盗んでいる」といった極端な表現で、不安や危機意識が増幅されているからだ。

 すでに米国では顕著だが、対立する意見に耳を傾けない自閉的な傾向が日本でも始まっている。この「分断」を防ぐ上で、ジャーナリストが果たす役割は大きい。

 本書は2018年8月から9月にかけて農政ジャーナリストの会が開いた4回の研究会を採録するとともに、ベテランのジャーナリストが、戦後間もない時期に制定された旧農産種苗法までさかのぼって歴史を解説している。

 4人の講師は、西川芳昭・龍谷大学経済学部教授、江面浩・筑波大学つくば機能植物イノベーション研究センターセンター長、野口勲・野口種苗研究所代表、藤田裕一農林水産省食料産業局知的財産課種苗室室長で、バランスがとれている。

 特に、江面氏は、ゲノム編集が種子開発に与える影響に言及しており、法改正の議論は技術の進歩を踏まえる必要があると痛感する。今年のノーベル化学賞の授賞対象であるクリスパー・キャス9(CRISPR/Cas9)についても分かりやすく解説している。               

 農政ジャーナリストの会は、ジャーナリスト、研究者、企業や団体の広報担当ら300人超で構成する任意団体だ。発足は1956年。60年以上の歴史があり、「記者クラブ」の存在が大きい日本のマスコミ界において、有志が自主的に集まって勉強するグループが活動を続けるのは珍しい。

 「日本農業の動き」は、年4回程度発刊する同会の機関誌として創刊されたが、農文協を通じて一般にも販売されている。本業を持つジャーナリストたちがボランティアで編集しているという事情があるが、誤植と思われる部分が散見されるのは、残念だ。(税込み1320円、農山漁村文化協会)