国連家族農業10年 ーコロナで深まる食と農の危機を乗り越えるー 農民運動全国連合会編
2020.08.13
新型コロナウイルスの感染拡大の前から、効率化を徹底して短期的な収益の極大化を追求する農業に対して、国際的には懐疑的な見方が強まっていた。効率化の当然の帰結として、企業化された営農は規模の拡大を続け「メガファーム」と呼ばれる巨大農場も珍しくなくなった。しかし、果たしてそれは持続可能なのかという疑問だ。
その回答の一つが、2014年に国連が採択した「国際家族農業年」だ。国連は17年にこれを受け継いで19年から28年までを「家族農業の10年」と位置付けた。コロナ禍によって、メガファームが前提としていた市場の際限ない拡大、つまりグローバル化は否応なく停滞している。この動きは一時的だろうか、それとも確実な転換点になるのだろうか。
本書は、食と農の持続可能性を家族農業に求める実践例をいくつか紹介している。佐賀県唐津市で柑橘類を軸に小規模複合経営を続けながら、15年に「小農学会」を立ち上げた農民作家・山下惣一さんも寄稿している。洒脱な文章なので原文を引用する。
―政府のいう「3密回避」とは「密閉」「密集」「密接」だそうだが、そんな環境は田舎の日常にはほとんどない。(中略)山の畑に行ってもこの時期は誰にも出会わない。安倍首相はなるべく人に会うなといわれるが、こちらは会いたくても人がいないのだ。(中略)3密こそが都市機能そのものであり、新型コロナウイルスにとって居心地のよい繁殖に適した魅力的な環境である。―
山下さんは、ウイルスの本質を突き、本気で新型コロナ対策を考えるならば、人口の一極集中を是正するチャンスを逃してはいけないと訴え、「文明は折り返し点を迎えている」と説く。経営規模の拡大による効率化や農産物の輸出を促進してきた安倍政権の農政担当者は、どのように反論するのだろうか。(116ページ、税別1300円、かもがわ出版)