生物に世界はどう見えるか ―感覚と意識の階層進化 実重重実 著 新曜社
2020.04.27
生物の感覚をめぐって冒険 実重重実 全国山村振興連盟常務理事
本書は、微生物から植物、カビ・キノコ、昆虫、魚、鳥、獣まで、生物が世界をどのように感覚しているかを描いたものだ。最新の科学知識を結集し、想像力も交えながら、生物から見た世界を探索しようとした。
生物界には多様な構成員がいて、それぞれに感覚の器官も違えば、結んでいる感覚の像も違う。例えば植物は10種類以上の目(受容体)で光を分析しているし、鳥や昆虫は地磁気、偏光、紫外線といった私たち人間には分からない信号で世界を見ている。単細胞のゾウリムシさえ、匂いから光まで五感に近い感覚がある。こうしたさまざまな生物の感覚を統一的に理解することは可能だろうか。
この本では、一つ一つの生物たちの生態の謎に迫りながら、こうした感覚が何十億年もかけて徐々に階層的に進化してきたことを体系として描いてみた。
私は農林水産省の行政官として35年間勤務し、行政実務を担当する傍ら一貫して意識していたのは、地球生態系に貢献したいということだった。
同時に私は、小さな虫から巨大な森林まで、生きとし生けるすべてのものに共感と尊敬の念を抱く日本古来の自然観でなければ、真に生態系に貢献することはできないと考えて、あらゆる生物を観察・研究してきた。
1枚の大きな絵
そうした中で出会ったのが、発生生物学者・団まりな氏だった。団先生が提唱した「階層生物学」では、生物界のそれぞれの側面を階層という視点で捉え、一つの体系として語ることができる。
団先生には独創性と異能の才を感じたが、ご自身は学界の中で孤独を感じていたようだ。 私が「弟子入りしたい」と手紙を差し上げたとき、「友あり遠方より来るという思いです」と返事をいただいた。「弟子というような古い言葉は嫌いだから、共同研究者にしましょう」と先生はおっしゃられ、「それでは僭越なので助手ということにしてください」と私は答えた。
そしてその後、私は先生が設立した「階層生物学研究ラボ」に研究員として参加した。
それから20年、団先生が亡くなってからも6年になる。階層生物学の手法で見ると、絡まり合っていたものが明快に整理されていく。一つ一つの細胞には「主体的な認識」があると、私は考える。それがやがて個体では「感覚」となり、その枝の一つが、私たちが持つ複雑な「意識」にまで発展したのだ。
私たちの認識は、世界を冒険することができる。小さな謎解きを重ねながら、やがてそれが1枚の大きな絵となってくることを、多くの読者の方々に見ていただきたいと思う。(198ページ、税別2400円、新曜社)
(KyodoWeekly・政経週報 2020年4月27日号掲載)