インドネシアのハラル認証義務化を商機に 日本企業、食品関連で拡販狙う NNA
2024.09.30
日本の食品関連業者が、インドネシアのハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)市場で販路拡大を狙っている。インドネシア政府が10月から飲食品や食肉加工品などのハラル認証取得義務化を開始する方針のため、認証を取得する企業が増えていることなどが背景にある。9月には3日間にわたって首都ジャカルタで開催された「Fiアジア(アジア食品原料見本市)2024」のジャパン・パビリオンに日本・日系企業が約7社出展。ハラル認証取得商品を展示し、来場者にアピールした。(写真上:ジャカルタで今月開かれた水産品展示会「Fiアジア2024」の様子=4日、ジャカルタ特別州、NNA撮影)
同見本市はイベント企画大手の英インフォーマ・マーケッツが主催。世界38カ国・地域から食材サプライヤーや自治体、業界団体700社超がブースを出展。2万2800人が来場した。
ジャカルタでの同見本市へ2013年頃から出展している、みそ製造大手のハナマルキ(長野県伊那市)は、現地の販売代理店「エスコ・ケミカルズ・ミトラウタマ」と提携し、ハラル認証機関「LPPOM MUI」(インドネシア・ウラマ評議会食品・医薬品・化粧品検査機関)の認証を取得した調味料「液体塩こうじ」の販売を開始して2年目となる。
ハナマルキ海外営業部海外営業課主任、前原森生氏によると、今年からは粉末タイプの塩こうじの販売も開始。今後は、唐揚げやミートボールを製造する食品加工メーカー向けに液体塩こうじを販売していきたいと語った。
(ハラル認証を取得した「液体塩こうじ」を展示するハナマルキのブース=4日、ジャカルタ特別州、NNA撮影)
今回のFiアジアが初出展となる日本製紙は、フードテック(先端食品技術)分野にも力を入れている。木から食品添加物、飼料、肥料、エネルギーなどを作り出す取り組みを実施しており、木の繊維をナノレベルまで細かくほぐすことで生まれるバイオマス素材「セレンピア」の海外拡販を狙う。セレンピアは加工食品ではパンクや形崩れを防止し、菓子類では賞味期限を延長することができるなど、廃棄ロス削減につながる素材とされている。
同社のバイオマスマテリアル事業推進本部の川野大輝氏は、「ハラル認証については、日本の認証機関で既に取得している。海外展開に向けて現在インドネシアとの相互認証の対応について確認している段階だ。同国を皮切りに、タイなどにもアプローチしていきたい」と意気込みを語った。
食品添加物などを製造・販売するMP五協フード・アンド・ケミカル(大阪市)は、タマリンド(アッサムジャワ)の果肉の種を原料とする食品添加物「タマリンドシードガム」の海外での知名度向上に力を入れる。同添加物は日本で60年以上の販売実績があり、このほど現地パートナーを選定し、インドネシア進出を決めた。今回の展示会で直接来場者のニーズを聞き、シンガポールやベトナム、フィリピン、マレーシアなど東南アジア市場への進出も計画している。
同社事業開発部事業課長の本間裕衣子氏は、「東南アジア進出を視野に入れた時点で、ハラル認証取得は必須という認識があった。そのため、インドネシアの認証機関と相互認証を行う日本ムスリム協会で認証を取得した」と説明した。
■ハラル認証取得企業が急増
インドネシア政府は19年、ハラル製品保証に関する政令『19年第31号』に基づき、飲食品や食肉加工品などのハラル認証取得を義務化。24年10月17日までの5年間は取得猶予期間を設けており、10月18日以降取得を義務付ける方針だ。
日本貿易振興機構(ジェトロ)のリポートによると、インドネシアでのハラル認証取得数は、取得義務化を追い風に新型コロナウイルス禍以降も大幅に増加。同国の民間認証機関LPPOM MUIで認証を発行した企業数は23年までの5年間で約5倍の1万8701社に拡大。認証製品数も同約2.5倍の42万7402点となった。
宗教省傘下のハラル製品保証実施機関(BPJPH)では、今年3月時点での認証取得企業数が159万2149社。政府は24年に1000万製品のハラル認証を目標に掲げており、今後も認証数は増え続けることが予測されている。
矢野経済研究所のシニアコンサルタント(ハラル担当マネジャー)の神部綾氏は、NNAに対し、「輸出拡大を目指す企業が、人口と所得が増えている海外のムスリム市場にも販売できるようハラル認証を積極的に取得していることに加え、インドネシアで認証取得義務化の制度が整えられたことで、企業間では必然的に認証の意識が高まる結果となった」と指摘。日本ではこれまで輸出向け製品の認証取得が多かったが、今後は外国人観光客などのインバウンド需要を目的とした認証取得も少しずつ増えるだろうと付け加えた。
■10月の新政権発足で今後の対応決まる
ジェトロのリポートによると、東南アジア主要4カ国(インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ)のうち、ハラル認証の取得義務化を開始すると発表しているのはインドネシアのみで、シンガポール、タイでは認証取得は任意としている。
マレーシアでは9月18日、政府がハラル認証の取得について、現行の方針を維持し、引き続き事業者側の「任意」とすることを閣議決定したと発表した。
同認証制度を巡り、マレーシア・イスラム開発局(JAKIM)が豚肉や酒類を提供しない飲食店へのハラル認証義務化を検討していると報じられ、非ムスリムの国民が強く反発するなど世論が割れていたことが背景にある。
インドネシア政府は今年5月、10月からの認証取得義務化について、小規模・零細事業者に限り、認証取得義務化の施行を26年に延期すると発表した。アイルランガ調整相(経済担当)は小規模・零細事業者のハラル認証取得が進んでいないことに配慮したと説明している。
矢野経済研究所の神部氏は、「インドネシア政府は10月以降、まずは認証取得の義務化に対応できていない製品を展開する企業に対して、警告レターを発行するとしている。ただ、それ以上の罰則については現状どのように実施していくのか明確になっていない」と述べた。
インドネシアでは10月20日からプラボウォ・スビアント次期大統領による新政権が発足する。神部氏は、「認証取得義務化の開始は新政権のスタート時期とちょうど重なることから、実際には新政権の体制が確立してから今後の対応や方向性が明確になっていくだろう」と指摘。法律をベースにしつつ、企業側の準備状況を見ながら柔軟性のある対応を行うとの見解を示した。(NNA 藤原絵美)
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