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舌やイデオロギーに普遍性はない  マックのロシア撤退に思う  岡田充 共同通信客員論説委員

2022.05.16

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舌やイデオロギーに普遍性はない  マックのロシア撤退に思う  岡田充 共同通信客員論説委員の写真

 「マクドナルド(マック)が全ロシア店を閉鎖」。ロシアのウクライナ侵攻(2月24日)から2週間余りたった3月9日、ロシアで850店舗を経営する米マクドナルドがロシアからの撤退を発表した。その翌日には日本のファーストリテイリング(ファストリ)が、ロシアにある「ユニクロ」全50店の営業停止を決めた。(写真はイメージ)

 米欧日はウクライナ侵攻以来、ロシアの海外金融資産の凍結をはじめ、石油・天然ガスの禁輸、最恵国待遇の取り消しなど、史上例をみない経済制裁を科した。制裁は表向き「ウクライナからの撤退」を迫ることにあるが、直接の効果がないのは誰もが知っている。

 ロシア経済にボディーブローのように打撃を与え、それがロシア人のプーチン批判につながりプーチン政権を揺さぶることに主眼がある。

 こうした国家の制裁以上にインパクトを持つのが、マックやファストリなど有名企業の撤退や縮小。4月初めまでに計470社余りに上るという。中でも食品や飲料企業は、多くの人の舌に記憶される「身体性」があるため、制裁のリアリティーが一層高まる。

 マックは冷戦終結後の1990年1月、旧ソ連初の1号店をモスクワ中心部にオープンした。ソ連が脱社会主義に向かう象徴的な存在でもあった。ある米ジャーナリストは「マクドナルドがある国同士は戦争しない」という"紛争防止の黄金のM型アーチ理論"を提唱したほどだ。

 だがロシアは、やはりマックのあるウクライナに侵攻し「M型アーチ理論」は、木っ端みじんに砕かれた。マックは撤退理由を「侵略と暴行に対し非難を表明し、平和を祈念する世界の動きに加わる」と侵略に反対する「倫理」面を強調した。

 一方ファストリの理由は少し異なる。声明は「紛争を取り巻く状況の変化や営業を継続する上でのさまざまな困難」としており、サプライチェーン(供給網)や輸送網打撃に伴う「実利」に触れた。両社は侵攻後も営業を継続していたが、それに国際的な批判が強まっていたという。

 「批判」について言うなら、企業イメージやブランド名に傷がつき、結果的に事業に悪影響が及ぶという意味では、やはり「実利」を意識した撤退ということだ。マックのロシア事業の売り上げは、世界全体の1%台とわずか。脱ロシアは経営にも跳ね返らない。

 崩壊したソ連を継承したロシアのエリツィン大統領が、孫の手を引いてマック1号店を訪問したことがある。ビッグマックをほおばった大統領は、歯型のついたバンズを開いて、上から食塩を何度も振りかけた。塩気が足りなかったのだろう。孫にほほ笑みかけながら今度は満足そうに食べるエリツィン。この様子をモスクワのTVニュースで眺めながら、「舌やイデオロギーに普遍性なんかない」と、つくづく思うのだった。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年5月2日号掲載)

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