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[書評] 食料・農業・農村基本法 どう見直すのか 日本農業の動き(221) 農政ジャーナリストの会

2024.02.15

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[書評] 食料・農業・農村基本法 どう見直すのか 日本農業の動き(221) 農政ジャーナリストの会の写真

 岸田文雄政権は、「食料・農業・農村基本法」の改正を目指しており、近く国会に改正案を提出する段取りだ。約25年ぶりの改正であり、十分に審議を尽くすことを期待したい。本書は、食料・農業・農村審議会の基本法検証部会の部会長だった中嶋康博・東京大学教授ら5人が、20232月から11月にかけて講演した研究会を採録している。

 他の研究会の講師は、効率的な稲作経営の模範とされる横田修一・横田農場代表取締役、農業経済学者の谷口信和・東京大学名誉教授、国際情勢に精通した農林中金総合研究所の平澤明彦・理事研究員基礎研究部長、全国農業協同組合中央会(JA全中)の馬場利彦・専務理事で、それぞれの分野の第一人者ばかりだ。今なぜ、基本法改正なのかを理解する上で必読の一冊だ。

 農林水産省は、基本法の理念に、食料安全保障、環境との調和、地域コミュニティの維持を盛り込むと説明しているが、「今なぜ改正か」のメッセージの発信力が弱い。本誌の編集部は、解題に相当する「本特集に向けて」や編集後記で、「モノ中心の農業から人中心の農業への転換」と手短に改正に向けた期待を表現している。明快で、さすがにジャーナリストだと感じ入る。

 本誌は「ロシアによるウクライナ侵攻が(基本法改正の)発端」、「基本法見直しのきっかけは、本会研究会における森山裕衆議院議員の講演(2022年5月30日)であった」と解説し、気負いさえ感じる。ただ、実際に自民党が基本法改正に動き始めたのは、もう少し早い。

 自民党は、新型コロナの感染拡大による飼料・肥料など農業資材の価格高騰や、米国と中国の対立激化で中国産の肥料原料の入手が困難になったことを受けて、同年224日に「食料安全保障に関する検討委員会」を設置した。同日、委員長の森山氏が「基本法の制定からおよそ20年が過ぎている(中略)新しく法律をつくるべきもの、現行法を改正すべきものがあれば、そのことにもしっかり取り組むことが大事だ」と述べ、519日に基本法の見直しを柱とする中間提言を取りまとめた。

 5月30日の講演はこの提言に基づいている。蛇足として時系列を付記した。日本農業の動き221号(食料・農業・農村基本法 どう見直すのか)は農山漁村文化協会(農文協)発行、税込み1320円。