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「書評」農水OBの政策提言 「日本の食料安全保障-食料安保政策の中心にいた元事務次官が伝えたいこと」(末松広行)

2023.09.26

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「書評」農水OBの政策提言 「日本の食料安全保障-食料安保政策の中心にいた元事務次官が伝えたいこと」(末松広行)の写真

 何を読むか。書籍のベストセラーを参考にする人も多いだろう。かつては、東京駅の向かいの八重洲ブックセンター本店(再開発のため休業中)の売れ行きランキングなどが指標とされたが、今やアマゾンなどネット通販のランキングが圧倒し、分野や購買層によって詳細なデータを得られる。

 しかし、農林水産のような特定の分野では、店頭で手にとった人の購買動向に重みを感じる。三省堂書店農林水産省売店の店頭調査も有益だ。日本政策金融公庫の広報誌AFCフォーラムが毎号ベスト10を掲載しており、2023夏2号(9月)では、本書がトップ(7月月間)だった。2位、4位、6位に奥原正明元農水次官の著作が入り、場所を反映していると思われるが、そうした点がネットのランキングとは異なる面白さだ。

 本書の著者は、2007年の食料危機を受けて翌年に農林水産省に新設された食料安全保障課の初代課長であり、食料安保の理論から実践まで知り尽くしている。食料自給率については、新しい指標「必要カロリーベース自給率」を提案している。分母を各年の供給カロリーではなく、供給するべき必要なカロリーに固定し、生存に必要なカロリーをどれだけ自給しているかを示す指標だ。

 またコメの適正な備蓄水準について、300万㌧程度を提案している。農水省は現行約100万㌧の備蓄水準を引き下げる方針であり、現役のある幹部は「元次官を前面に出した発言は控えてほしい」(6月21日付け日本農業新聞)と迷惑そうだ。

 官界に限らず、日本の組織には「OBは口出しを控える」という気風があるが、政策の表裏を知り尽くし、業界や政治とのしがらみから開放された「識者」の提案には傾聴するべき点が多い。現役官僚はぼやいていないで、OBと丁々発止の白熱した議論を展開してほしいものだ。育鵬社から発刊、1870円(税込み)