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「書評」激変する日本農業と未来像 「日本農業の動き218」(農政ジャーナリストの会)

2023.06.10

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「書評」激変する日本農業と未来像 「日本農業の動き218」(農政ジャーナリストの会)の写真

 農政ジャーナリストの会は、2022年8月17日に生源寺眞一福島大学農学群食農学類長(当時)を招いて「食と農の未来をどう描くか」と題した講演会を開いた。その採録が本誌の白眉である。

 当時、生源寺学類長は22年度で退官することが内定していたため、これまでの学究生活を踏まえた上で将来を見通すという重みのある内容になった。同学類長は、「社会の変化」として、ロシアによるウクライナ侵攻、脱炭素社会、多様な価値観の許容、自然災害の多発の4点を挙げた。

 質疑応答の中で、食料・農業・農村基本法の見直しについて「議論をするには早すぎる。(基本法が)どのように機能してきたか、あるいは機能しなかったのか、振り返ってみる必要がある」と述べ、審議会の議論とは無関係に、政治主導で農政が決められてきた過去の経緯を批判した。

 その後の基本法の「見直し」は、まさしく政治主導で推移し、昨年12月27日に岸田文雄首相は、24年度中に基本法改正案を国会に提出することを視野に、23年6月をめどに食料・農業・農村政策の新たな展開方向を取りまとめるよう農相に指示した。残念なことに、生源寺学類長の懸念は図星となった。

 本書はほかに、「日本型畜産のあり方」(小林信一静岡県立環境専門職大学短期大学部教授)、「農業イノベーションの可能性と限界」(南石晃明九州大学大学院農学研究院教授)、「地域自給の視点から考える」(菅野芳秀一般社団法人置賜自給圏推進機構共同代表)の3本の講演録を掲載し、重厚な内容になっている。

 日本農業の動き218号(激変する日本農業と未来像)は農山漁村文化協会(農文協)発行、税込み1320円。