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「書評」地質学から読み解く和食の素材 「美食地質学」入門(巽好幸)

2023.07.08

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 生成系人工知能(AI)の普及が始まり、AIや情報技術(IT)を駆使するフードテックの勢いが加速している。農業生産の分野では、月面での食料の自給自足を目指す閉鎖系の研究も進んでいる。しかし、どれだけ技術が進歩しても、やはり農業は気候風土によって大きく制約されると実感させてくれるのが本書だ。

 活発な火山活動と地殻運動によって急峻な山地ができた日本列島は、河川の距離が短いため軟水が多く、カルシウムなどミネラルが少ないからだ。この違いによって和食文化の根底をなす出汁が生まれ、中国を起源とする豆腐や醤油を独特の素材に変えた。

 しかも、4枚ものプレートが押し合いへし合いしている日本列島は、花崗岩が複雑に点在し石灰の分布によって各地で個性あふれる食材を生み出した。

 醤油や豆腐だけではない。蕎麦、江戸東京野菜、うどん、さらに江戸前魚介、牡蠣、サバ、ビワマス、ハマグリ、カニ、ホタルイカ、しじみ、アユなど豊な海の幸の背後にも、活発なマグマの活動がある。漠然とした「風土」という概念を、地質学で裏付ける目から鱗の1冊だ。光文社新書、税込み946円。