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「書評」 農政の「転換」を考える  「日本農業の動き215」(農政ジャーナリストの会)

2022.08.24

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 3年ほど前から、農業政策に変調を感じる。ビジネスとして成長できる経営体だけではなく、兼業農家などの中小経営や農村政策を重視する姿勢への変化だ。

 具体的には、2020年3月に閣議決定した中期指針「食料・農業・農村基本計画」と、21年5月に農水省が策定した「みどりの食料システム戦略」に盛り込まれた政策を挙げることができる。確かにこの2つは、多様な担い手や中山間地への目配り、有機農業の推進などが明記され、「成長産業化」の路線とは一線を画している。

 ただ、この変化をどう評価するかは難しい。改革に逆行する「先祖返り」なのか、過度な成長重視を軌道修正するための一時的な「揺れ戻し」なのか、農政が本来あるべき姿を目指す「政策転換」なのか。本書は、農政の変調を「政策転換」と前向きに位置付け、「多様な担い手」や「半農半X」に強い期待を示している。

 本書は、農政ジャーナリスの会が昨年10月から今年1月に開催した一連の研究会の講演を採録し、塩見直紀・半農半X研究所代表、田中千之・島根県農業経営課長、歌手の山田雄太氏らの成功体験を伝えている。小田切徳美・明治大学農学部教授と日本農業新聞北海道支所の尾原浩子記者の解説も、農政の変調を前向きに評価している。

 しかし、自民党の農政は一筋縄ではいかない。この数年の変調と同期して進んでいるのは、農業協同組合・自民党農林議員・農林水産省の「トライアングル」の復活であり、予算の配分を軸とする利権構造の再編だ。「多様な担い手」や「半農半X」は、農水省というよりは総務省や国土交通省などが主導し、いわば農政の「場外」で推進され、良くも悪くもトライアングルの利権構造からははじき出されてきた。

 その成功例を根拠に「農政の転換」と評価するのは早計だ。トライアングルのプレーヤー全員が、これまでの農政を総括し、本気で転換を図らなければ、単なる「先祖返り」で終わるだろう。「変調」を評価するためには、8月10日に発足した第2次岸田改造内閣の農政を見極める必要がある。

 日本農業の動き215号「兼業・多業の農業担い手論」は農山漁村文化協会(農文協)発行、税込み1320円。