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「書評」  「科学の心」を養う  「もしもがんを予防できる野菜があったら」(山根精一郎)

2022.04.10

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 遺伝子組み換え技術は、「賛成か反対か」の両極で語られることが多い。本書は、モンサントで25年以上遺伝子組み換え作物に携わり「日本モンサント」の社長も務めた著者自らが「人生の集大成」と位置付ける内容だ。 

 当然ながら、遺伝子組み換え技術を礼讃するが、真の主題はより普遍的だ。著者は、科学的に考える態度の欠如を嘆き、「新聞記者も報道番組の制作者も(中略)センセーショナルな報道をしたがる傾向にある」とメディア批判を展開する。

 「データに基づき、物事を両側面から立体的にとらえ、総合的に良し悪しを判断する人、つまり科学者の心を持った人が増えてほしい」という著者の願いは理解できるし、科学的に考えることは重要なアプローチだ。

 だが、科学は常に仮説にすぎない。新たな知見を加えながら不断の修正を重ねて進化する。「15世紀の科学」では太陽が地球の回りを動いていたし、わずか100年余り前まで光は曲がらず直進することが科学だった。

 身近なところでは、積極的に日光浴をして日焼けすることが「科学的」だった。団塊世代前後の人だと、子どもの頃に真っ黒に日焼けした記憶を持つ人が多いだろう。そして、今になって皮膚にできた染みを嘆き、皮膚がんを懸念しているのではないか。

 科学ですべてを説明しようとする態度こそ、科学者の独善だ。遺伝子組み換え食品の是非は、「現在の科学」で説明できる部分と、そうでない部分を切り分けなければ、決して議論は噛み合わない。幻冬舎、税込み1650円。