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基本法改正案から伝わる意外なメッセージ  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」

2024.04.29

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 元農相の森山裕・自民党総務会長が農業ジャーナリストらを前に「食料自給率の向上へ、しっかりした目標を立てないと...」と言明して、食料・農業・農村基本法の見直しが動き始めたのは2022年5月末。その3カ月前にはロシア軍がウクライナに侵攻。森山氏はそれを踏まえてか、現行法について「食料安全保障の考え方が非常に希薄」として、24年の通常国会への基本法改正案提出の流れを示してみせた。その見込み通り、改正案は岸田文雄政権の目玉法案として審議が進む。(写真はイメージ)

 森山氏の意向を受け、22年夏に就任した野村哲郎農相(当時)は「輸入依存からの脱却に向けた構造転換のターニングポイントにする」と意気込み、地方や農業関係者らの期待を高めた。

 そして今年、国会開幕早々に提出された基本法改正案は「食料安全保障の確保」を基本理念の主軸に明記、政府の意気込みを示した。しかし本来、「食料安全保障といえば食料自給率向上」とみる野党などは、食料自給率の扱いを「さまざまな事項の目標」の一つに格下げしていると猛反発。現行法で向上を「図ることを旨」としていたのを「改善が図られるよう(中略)関係者が取り組むべき課題」と、ひとごとのような扱いと批判。坂本哲志農相も国会で「自給率が確実に上がると言い切ることは困難」とし、さらに反発を呼んだ。

 また、現行法の「国内の農業生産の増大を図ることを基本」は残しつつ、「輸入及び備蓄とを適切に組み合わせる」だったのが、「安定的な輸入及び備蓄を図る」と輸入を一層重視したのではないか、との見方もできる。並行して国と民間の連携で、輸入相手国の多様化や投資の促進を打ち出したこともある。輸入拡大は何を招くか。「逆に肝心の国内自給率は下がりこそすれ、上がるのを妨げかねないのでは」との指摘もある。

 一方、改正案には、新たな基軸として「環境と調和のとれた食料システムの確立」が明記されている。食料供給の各段階で出る環境負荷の低減を求めたものだ。しかし、政府が食料輸入を拡大すれば、輸送に伴う地球環境への負荷(フードマイレージ)をさらに助長し、環境負荷低減の方針に逆行するとの分析もある。自給率向上から輸入に傾斜することで自家撞(じかどう)着(ちゃく)を招いたようにもみえる。

 国民は納得するだろうか。今後急減する担い手には不確実なスマート農業で対応し、よくよく困った時の不測の事態には「食料供給困難事態対策法」(案)で、イモや米への作付け転換を花き栽培・販売農家や離農者に強制的に要請。従わないと20万円以下の罰金というから怖い。何か食料安保を巡る政府の綱渡り、自信のなさ、焦りさえ感じる強引さだ。

 改正案は理念法だけに、具体的なことは基本計画でないと分からない面もある。しかし、改正案が発するメッセージは、「政府に頼ってのんびりしている場合か」とも聞こえないか。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年4月15日号掲載)

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