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仕掛けで伸びる「道の駅」  期待される地域活性化  岡本義行 法政大地域研究センター特任教授

2021.03.15

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 新型コロナウイルス感染拡大が広がる前、自動車を運転していると、その土地の「道の駅」が自然と目につくほど普及している。全国で約1180カ所が営業し、地域活性化が期待されている。地方再生問題に詳しい岡本義行氏に現状と課題をまとめてもらった。(写真:長野県伊那市の道の駅「南アルプスむら」=筆者撮影、以下同)


受け皿


 北関東のある道の駅で見た光景は今後の道の駅を暗示している。「お化け屋敷」や「ドクターフィッシュ」、そして温泉の足湯といった施設があった。その横で老夫婦がベンチに腰掛け夕日を眺めていた。近隣の2人と見られる。レストランや屋台がある。何をするというわけでもなく時間が過ぎるのを待っているように見えた。

 「道の駅」は全国で増加し続けているが、立ち行かなくなった駅もある。地域再生への切り札と地域の希望でもあったし、インバウンドの外国人観光客への受け皿との期待もあった。

1180カ所

      
 道の駅の構想の目的はドライバーの休憩所であった。一般道でドライバーの休息、トイレ休憩、道路情報の提供、もちろん駐車場の設置であった。

 そこに他官庁の補助金などで野菜・魚介類の直売場や土産物販売所、そしてレストランが設置されるようになった。現在ではむしろ農産物直販場やレストランが定番になった。この自由度が道の駅成功の裏にはあるように思える。

 道の駅は全国で計1180カ所(2020年7月1日時点)設置されている。今年も新型コロナウイルス流行の中で、最も多いのは北海道(122駅)であり、岐阜県(56駅)、長野県(52駅)と続いている。

 かつては中山間地域の町村に多く、おおむね1自治体1カ所であった。「平成の大合併」で複数の「道の駅」を持つことになった自治体が増加した。岐阜県では高山市が8カ所、郡上市が7カ所。

 道の駅の売り上げはバラツキが大きい。収益の全くない道の駅もある。一般に売り上げは接する道路の交通量と相関する。車が通らなければ道の駅に人は入らない。人を集めるために特別の集客装置や商品が必要である。これは「ビジネス」なのである。

 ただ、まったくビジネスを考えないスポーツ広場のような道の駅もある。地元住民のための運動施設などもある。

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(写真:福井県小浜市の道の駅「若狭おばま」で開かれた流しそうめんのイベント)

 道の駅は観光地になった。道の駅への期待は観光による集客であろう。最近では道の駅の観光案内や「Go Toトラベル」による道の駅ツアーさえ企画されている。

 インバウンドの観光客も見据えて、最近、道の駅にホテルが併設された。道の駅の周辺に宿泊設備がないが、栃木県の「ろまんちっく村」に「マリオットホテル」を積水ハウスと組んで建設した。さらにホテル建設は進む。

利害関係


 道の駅設置にあたってまず問題となるのは立地である。

 どこに設置するかついて住民のコンセンサスが得られるかどうか。住民の利害は交錯する。地域や政治風土にもよるが、自治体も簡単には決められない。自治体はさらにやはり収益性が気になる。収益性は経営者の選定に大きく依存する。

 特に農産物の直売機能を持つ場合には利害関係が絡む。一般に道の駅に農産物を出荷する場合には荷組合員(生産者農家組合)が形成され、この組合に入会することで、「道の駅」への出荷が可能となる。地域コミュニティーとの関係がその後の経営に大きく影響する。

 次に経営について見てみよう。これも関係者や事業目的に依存する。近年ビジネスとしての成果を出すことが重要視され、専門家を招請するほか、経営自体を外注するケースが増えている。

 当然のことだが、これだけ多くの道の駅が設置されれば赤字となるケースも増える。

 当初、豪華な建物や設備を建設した道の駅もあった。ビジネスとしての意識は少なかった。道の駅はビジネスとしての財務構造が明確ではない。 

 さらに第三セクターや指定管理者への委託が経営責任を不明確にしている。これは道の駅の自由度がむしろマイナスに働いている。10億円以上の売り上げがある道の駅は1割にも満たない。

 国土交通省によって全国モデル「道の駅」に選定された「道の駅 田園プラザ川場」(群馬県川場村)のように、高速道路に面して交通量が多いところは別にして、さまざまな経営努力を重ねている。

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(写真:長野県阿南町の道の駅「信州新野千石平」)


▽道の駅桜島「火の島めぐみ館」


 旬菜館は鹿児島市の桜島港の近くに位置する。地元の女性が「有限会社 さくらじま旬菜館」を経営する。これは「桜島町生活改善グループ」から発展した女性グループだといわれる。

 1980年に火山灰で商品価値のなくなったミカンを共同加工することから始めた。みそやジャム、そして規格外で市場に出荷できない小ミカンや桜島大根を特産品として加工 ・ 販売してきた。

 経営努力で付加価値を付けて加工品を販売する。この商品開発により、加工品のジュースやドレッシングは市内のデパートでも販売されている。これらの商品開発には、科学的な特性や機能を生かすように、鹿児島大学や公設試験研究機関などとの協力を得て製品開発をしている。

 地域コミュニティーを支援するために、原料の小ミカンなどを高い価格で購入するという。女性グループであるため妊娠や子育てに合わせて働き方を調整しているという。

▽萩シーマート


 山口県萩市に設置された道の駅「萩しーまーと」は、海産物を中心としている。駅長は今では有名になった。営業・広報の専門家として招請された。魚について勉強して名前まで「さかな」に変えた。山口県内の広い範囲から集客している。広報にも力を入れ、NHKの番組を持ち魚についての情報を提供していたこともあった。

▽道の駅うつのみや ろまんちっく村


 栃木県・宇都宮近郊で旧農林公園をもとに設置された道の駅である。自動車メーカー出身の経営者であり職員教育が行き届いているのがまず目に付く。ホテルを併設し、さまざまな独自の体験が楽しめる。

 農産物直売所、フードコート、ドッグラン、温泉やプールに宿泊施設がある。広大な土地を活用して、クライン・ガルデンでの耕作や森林での遊び散策などである。天然温泉の露天風呂や温水プールなども設置されており、小さな子どもも楽しめる滞在型のサービスを提供する。

▽道の駅 もてぎ


 栃木県茂木町の国道沿いに設置された道の駅である。

 町長がリーダーシップをとって、道の駅全国モデルにも選定されている。マリオットホテルなどと連携して、最近ホテルを開業した。すぐ横を走る真岡鉄道のSLも人気である。防災センターなども設置して、道の駅が地域の拠点となっている。

▽道の駅 だて歴史の杜


 国道沿いの道の駅は町の中心に立地する。道の駅の直売場が広いのが印象的だ。

 伊達市は北海道でも温暖な気候であり、さまざまな野菜が生産される。85人の生産者がそれぞれの棚に野菜を供給する。中には年間1200万円を売り上げる農家もあるという。持ち込まれる野菜の種類は全国一とのことである。農家が多様性に貢献し、特徴ある道の駅を支えている。


「生活の駅」に


 道の駅によっては市場拡大のためにさまざまな取り組みを行っている。

 大都市周辺で移動販売者を使って「道の駅店」を開催して地元商品を販売している。また過疎化や高齢化に伴う野菜不足を広域で解消したりもしている。さらに道の駅間で連携や東京など大都市との協力によって、売り上げを伸ばすことに努めている。地域的な制約を打ち破るためのさまざまな仕掛けがされている。

 道の駅は今後も新しく誕生するが、一方で淘汰が起こるだろう。どのように道の駅を設置し、経営するかは自治体の能力である。売り上げばかりを追求するのは道の駅の趣旨にもとる。

 多くの道の駅は中山間地に立地するため、ますます過疎化と高齢化が進むだろう。そこでは中山間地の生活を支えるインフラが不可欠であり、道の駅が「生活の駅」となることが求められると思われる。


岡本 義行(おかもと・よしゆき)氏 京大大学院博士課程修了。博士(経済学)。法政大大学院政策創造研究科長などを歴任、名誉教授。2018年4月から法政大・地域研究センター特任教授。東京都出身。73歳

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年3月1日号掲載)

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