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「目からうろこ」の課題提起  元水産庁次長の宮原氏  AFCフォーラム3月号から

2022.03.22

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 「サンマがとれない」「燃料油の高騰で漁業者が悲鳴を上げている」など、沿岸漁業の厳しさは断片的に聞いていたし、できるだけ関心を持つように努めてきたつもりだが、知らないことばかりだ。 

 元水産庁次長で「よろず水産相談室 afc.masa」を代表として運営する宮原正典氏は、日本政策金融公庫の月刊誌AFCフォーラム2022年3月号の特集「持続可能な水産業の展望」の「水産業の危機感共有し脱炭素にも挑戦」で、思いもよらない事実や課題を提起している。目からうろこが落ちる思いだ。

 これまで漠然と「地球温暖化が不漁の原因であり、漁業者はその犠牲者」と思い込んでいたが、単純計算で1㌔の魚を取るために0.4㍑の燃油を使っているという。漁獲後の冷凍や鮮度維持のための大量の氷も含めれば食卓に魚が届くまでに使われる燃料は膨大だ。宮原代表は「燃油に依存する漁業は温暖化の原因者でもある」と指摘する。

 近海の不漁は、サンマやイスルメカだけではない。しかも一過性ではない。これまで「(不漁が)何年も続くのはまれであったし、何かが取れなければそれに代わる魚種が豊漁になった」という。暖流と寒流がぶつかり世界有数の好漁場だった日本近海のさまざまな場所で「海の変化」が確実に起きている。

 しかも対策どころか、原因の解明や調査、その前提となるデータ収集さえ「緒に就いたばかり」という。これではいくら「持続可能な漁業」と力んでみても、得体の知れぬ妖怪に立ち向かうようなものだ。

 さらに問題なのは、こうした危機に対する無知ぶりは、評者だけではないようだ。宮原代表は「情報が漁場ごと、業種ごとに区切られていて、三陸の不漁の状況を九州の漁師は知らないし、ブリ養殖業者の不安を道東の漁師は知らない」と指摘、水産関係者の間でさえ情報が共有されていなとことを憂う。「いますべきは、危機感を共有し、できることに取り組む前向きな姿勢を示すこと」だと提言する。