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栽培技術改良や品目転換が急務  気候変動は農業変える「チャンス」  前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタント

2022.02.28

栽培技術改良や品目転換が急務  気候変動は農業変える「チャンス」  前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタントの写真

 昨年のノーベル物理学賞は、気候変動の予測に取り組んだ真鍋淑郎・米プリンストン大上席研究員ら3人に贈られた。

 地球大気の物理モデルの開発により、二酸化炭素の濃度上昇が地球温暖化につながるという、現在につながるシミュレーションの基礎を確立したことが評価されたものだ。

 昨年9月にIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)が公開した最新の報告書によれば、大気中の二酸化炭素の濃度は、2019年に410ppmに達したことが明らかにされている。この値を産業革命以前(1850~1900年)の水準と比べると、実に約47%も上昇したことになる。

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(出所などは下の表と同じ)


 そして、2011~20年の世界平均気温は、産業革命以前と比べると、1.09度も高くなっている。

 この報告書では、今後の気温予測として五つのシナリオが提示されている。それぞれのシナリオに基づく予測によれば、産業革命以前と比べた今世紀末(2081~2100年)の世界平均気温の上昇幅は、温室効果ガス(GHG)の排出が非常に少なく、温暖化を抑えたシナリオ(SSP1~1.9)であっても1.0~1.8度、GHG排出が非常に多く、温暖化が進行したシナリオ(SSP5~8.5)では、3.3~5.7度も高くなる可能性が非常に高いとされている。

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 既に、温暖化により、降水パターンの変化、干ばつ、熱波などのさまざまな気象現象の変化が発生している。

 国内の降水パターンに目を向けると、日降水量が100㍉以上の大雨の日数が増加する一方、日降水量1.0㍉以上の日数は減少する傾向が確認できる。大雨の頻度が増える半面、弱い降水も含めた降水の日数は減少するという、極端な特徴が表れている。

 今後の温暖化の状況次第では、こうした気候変動による影響がさらに激化する恐れがある。地球温暖化は、今や一刻を争う課題なのだ。

影響が顕在化


 農業では、気候変動により、作物の生育障害や品質の低下といった影響が顕在化している。 例えば、コメでは、でん粉の蓄積が不十分となりコメ粒が白く濁ってみえる白未熟粒や、胚乳部に亀裂がある胴割粒などが確認されている。

 果樹では、強日射による果実の日焼け、高温によるブドウやリンゴの着色不良・着色遅延、果実肥大期の高温・多雨によるうんしゅうみかんの浮皮(果皮と果肉の分離による品質低下)などが報告されている。

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(うんしゅうみかんの浮皮=左、出所:農研機構)


 また、気温上昇のような連続的な変化(定常変化)の影響に加え、特定の地点と時期においてまれにしか起こらない極端な気象現象(極端現象)の影響も問題となっている。

 近年、台風やゲリラ豪雨などによる農産物の被害が相次いでいる。風による落下、泥水への浸水などにより、収穫直前に農産物の商品価値がなくなってしまうケースが少なくない。

 また、圃場設備の損傷や、果樹の樹体生理の変化により、翌年の作付けにまで影響をきたすこともある。

 このように気候変動によるリスクは甚大である。

 ただ、負の側面だけではなく、「気候変動によるチャンス」にも目を向けるべきだ。チャンスを生かした例として、農研機構・九州沖縄農業研究センターの研究を紹介したい。

 多年草である水稲は、1回目の収穫後の切り株から「ひこばえ」という新しい芽が出てくる。これまでは芽が成長する前に冬を迎えていたが、気温が上昇すると生育期間が延びるため、通常の収穫に加えて、ひこばえから成長した稲も収穫できるようになる。

 研究では、同じ株から1年に2回収穫する2期作を実現し、試験圃場レベルでおよそ1.5㌧/10㌃の超多収を達成した。従来の収量は、多収品種を用いた優良事例であっても800㌔/10㌃であるため、その2倍近くの収量を実現できている。日本の技術力を生かして、したたかに適応を進めることにより、生産性や品質を向上させ、競争力を高めることができる。

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(水稲の再生二期作)

 この図(農研機構)は水稲の再生二期作で、1回目稲を遅刈した試験区における収穫直後の切株(a・c)と登熟中期の2回目稲(b・d)の状況を示している。

栽培技術の工夫・改良


 農業では、深刻化する収量や品質の低下に対して、栽培技術の工夫・改良という適応策を採っている。品種改良による高温や乾燥に対する耐性の付与、作付時期の変更による高温の回避などの打ち手により、環境の変化に対応した栽培方法を編み出している。

 ブドウでは、近年、特に巨峰やピオーネなどの黒系品種において、成熟期の高温による着色不良が顕在化している。果房全体が赤いままで黒色にならない「赤熟(あかう)れ」と呼ばれる症状が発生し、商品の価値が下がってしまう。

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(左はぶどう「巨峰」の着色不良、右は正常 出所:農研機構)


 現場では、ハウスなどで促成栽培を行うことによって成熟期を前倒しし、成熟期と高温期が重ならないようにする方法、樹皮の数㍉~1㌢程度を環状に剥ぎ取り、果実に糖を蓄積させることで着色を促進する「環状剝皮」と呼ばれる技術(下の写真、出所:農研機構)などが対策として採用されている。

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 また、また高温環境でも着色が良好な「グロースクローネ」(下の写真、出所:農研機構)、「涼香(すずか)」といった着色不良に強い新品種の開発も進んでおり、巨峰やピオーネからこうした品種へ切り替える動きがみられている。品質の高い農産物を生産し続けるため、こうした栽培技術の蓄積が不可欠である。

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品目転換


 しかし、このまま気温の上昇が続けば、栽培方法の工夫・改良だけでは対応しきれなくなる事態も想定される。

 既に、うんしゅうみかん、リンゴ、ブドウ、モモ、オウトウなど、一部の果樹で既存の主要産地が栽培適地ではなくなる可能性について言及されている。

 その時には、環境の変化に合わせて作付けする品目を見直す「品目転換」という選択肢も検討しなければならない。

 例えば、「今、山梨県でブドウを栽培している農業者が、気温が上昇した20XX年を境にマンゴーを栽培し始める」といった大胆な変化まで想定する必要がある。

 実際に品目転換を行う場合、現在の対策の延長線上にはない、非連続な変化に対応しなければならない。農業者は、栽培技術の蓄積、新規の設備や機械の導入のための資金調達、販売計画の立案・販売先の探索などが必要となり、新規就農に近いハードルに直面することになる。経営が安定せず、農業を続けられない人も出てくるだろう。

地域全体での対策


 農業経営がうまくいかなくなると、農業のサプライチェーン(供給網)全体に影響が出る。上流の農機や資材のメーカーは顧客を失うことになり、下流の流通や小売・食品産業では仕入れ先やルートの変更などに対応しなければならない。離農者の増加による耕作放棄地の増加といった地域の課題も危惧される。

 気候変動への対策は、農業者任せではなく、サプライチェーン全体で向き合っていく必要がある。

 農業・食品関連産業に加え、自治体、研究機関、金融機関などの地域の機関の役割も大きい。最近では、サプライチェーン下流の企業が、上流側にまで目を向け、共に対策を検討していくケースが増えつつある。サッポロホールディングスは、気候変動への適応のため、ビールの原料である大麦・ホップの新品種開発を進め、2035年までに国内での実用化を目指すと発表している。

 農業現場では毎年気候変動による被害が発生しているが、対症療法での対策には限りがある。大きなリスクに直面する今こそ、国内の総力を結集し、気候変動をチャンスに変える攻めの対策が必要だ。


 前田 佳栄(まえだ・よしえ)さん  1992年、富山県生まれ。2017年、東京大大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修了(16年度農学生命科学研究科修士課程総代)。学生時代は植物を対象とするバイオテクノロジー関連の研究を行う。実家はカブの契約栽培を行う兼業農家で、夏休みなどに帰省し農作業に汗を流している。現在、日本総研農業チーム所属

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年2月14号掲載)

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