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「コロナ後のローカル経済」(日本農業の動き211)  農政ジャーナリストの会

2021.08.15

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 新型コロナの感染拡大で、大都市集中のリスクが強く意識され、地方移住や田園回帰などローカル経済の重要性が再認識されている。ただ、この1年半の傾向をみると、大都市への通勤圏内での分散は確認できるものの、中山間地域の人口減少に歯止めが掛かるような勢いはみられない。コロナ禍による追い風をローカル経済の発展につなげられるかどうか、まさしく正念場だ。

 そのために必要な視点を、藤山浩・持続可能な地域社会総合研究所所長、高橋直樹・北海道中川町産業振興課主査、寺本英仁・島根県邑南町商工観光課調整監の3氏が、本誌で提供している。共通しているのは、ローカル経済を「持続可能性」という大きな潮流の中に位置付けることの重要性だ。この認識がなければ、地方移住や田園回帰は一時的なブームに終わりかねない。

 とりわけ、気候変動については国際的に危機感が強まっており、農業分野でも農林水産省が「みどりの食料システム戦略」をまとめ、数値目標を明示した。この戦略について、本誌の巻頭論文「ポスト成長経済社会の姿」の中で、吉村秀清氏が「方向性については間違っていない」と評価している。

 特に、作家の有吉佐和子さんが「複合汚染」の中で有機農業を提唱した1974年に「農林省、農協とも大反対のキャンペーンを展開したことを考えると隔世の感がある」と、ベテラン・ジャーナリストならではの「故事」を紹介した。改めて、有吉さんの先見性と行政当局の鈍感さに感じ入る。

 一方、「農政の焦点」に寄稿した榊田みどり氏は、半年足らずの間に極めて高い目標値を掲げた戦略を「唐突」と評価、「現場の理解がなければ動かない」と指摘し、「一時の夢で終わるのか(中略)農水省の本気度に注目」と懸念を示した。

 本誌の巻末には、第36回農業ジャーナリスト賞を受賞した「たづ鳴きの里~タンチョウを呼ぶ農民たちの1500日~」(北海道テレビ放送)、「FBCスペシャル2020 大地のバトン~土に希望の種をまけ~」(福井放送)、「ホハレ峠 ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡」(大西暢夫)の、概要と受賞者の言葉も収録している。(税込み1320円、農山漁村文化協会)