アグリサーチ

農の明日へ  山下 惣一 創森社

2021.07.23

ツイート

 無題 (8).png

 「海鳴り」(1970年)で日本農民文学賞を受け、その後直木賞候補作「減反神社」などを相次いで発表した在村の文学青年は、今や85歳の「百姓ジサマ」に完熟した。本書は、著者自身が「遺言」と位置付ける自分史だ。

 農家を継ぐのが嫌でたまらず2回も家出し、5万人以上の講習生を送り出し「昭和の農聖」と呼ばれた熊本県の松田喜一氏と出会う。「金儲けのためではなく生活のため」の農業を実践し、日々の農作業の中で自己実現を図るための模索を続けた。

 鹿児島大学副学長から「百姓」に転じた萬田正治さんと、2015年に「小農学会」を設立。政府が推進している「経営規模の拡大・農業の成長産業化」に対する強烈なアンチテーゼを提示した。

 「遺言」は「百姓は仕事を労働にしない、道楽とせよ」に集約される。山形県で生活者大学校を一緒に運営した作家の井上ひさし氏ら、著者がこの結論に至るまでに出会った人々との交遊や、ロシアのダーチャのルポも楽しく読ませる。(税込み1760円)