つくる

「小沢落選」が象徴する農村の衰弱  野党、農政の戦略練り直しを迫られる  共同通信アグリラボ所長 石井勇人

2021.11.01

ツイート

「小沢落選」が象徴する農村の衰弱  野党、農政の戦略練り直しを迫られる  共同通信アグリラボ所長 石井勇人の写真

 1031日投開票の衆院選で農村部に二つの衝撃波が走った。一つは、不敗神話を誇る立憲民主党重鎮の小沢一郎氏の選挙区(岩手3区)での敗北(比例で復活当選)。もう一つは日本維新の会の大躍進だ。農村に厳しい競争原理を持ち込んだ安倍晋三政権の政策からの転換を期待していた有権者は、都市部の声の大きさを思い知らされただろう。 

 冷徹な小沢氏は早い段階から、衆院選で一気に政権交代するのは不可能と判断。来年夏の参院選に照準を定め、農村部の影響力が強いいわゆる「1人区」で勝利することで、参議院での与野党逆転を目指していた。

 具体的には、農家の所得を直接下支えする農業者戸別所得補償制度の復活を公約の柱に据え、農村部での支持を掘り起こし、共産党や国民民主党などとの野党候補の一本化をさらに進める戦略だった。2007年夏の参院選で民主党が圧勝し、2年後の総選挙で政権交替を実現した時の「夢よ、もう一度」だ。

 農村部で評価が高かった戸別所得補償は、自民党からは「バラマキ政策」(斎藤健元農相)のレッテルを貼られ、安倍政権の発足で廃止に追い込まれた。当時の制度はコメの減反政策と組み合わせるなど設計上の問題が多かったが、「農村に手厚い政策」というメッセージは浸透しており、その復活を期待する声は根強く、今回の衆院選では社民党も「復活」、国民民主党は「戸別所得補償の再構築」を公約に掲げた。

 一方、都市部では「バラマキ」のイメージを覆すことはできなかった。鳩山由紀夫政権の農業政策とどう違うのかの総括がなく、政策の意図はあまり伝わらなかった。戸別所得補償をてこに政権交代を狙う小沢氏の構想は、根本的な見直しを迫られるだろう。

 農村と都市の意識の溝という点で、より本質的なのは日本維新の会の大幅な議席増だ。農村部の影響力が強い東北でも比例で1議席獲得した。政策について「是々非々」を旨とする維新の会の農業政策は、自民党以上に過激で明確な規制緩和だ。

 具体的には、減反廃止の徹底とともに、株式会社の農地保有について主要政党の中では唯一「全面解禁」を訴えてきた。自民・公明政権が、直ちに維新の会の主張を政策に反映するとは思えないが、今回の衆院選の結果を踏まえて都市部の有権者の関心により配慮するのは確実だ。

 東京都議会の会派「都民ファーストの会」に所属する都議らが設立した新党「ファーストの会」は、準備不足や都民ファーストの会特別顧問である小池百合子東京都知事の不出馬で、今回の衆院選では候補者の擁立を見送ったが、都市政党として来年夏の参院選を含めた今後の国政選挙に進出する可能性がある。

 本来、党利党略で都市と農村の利害対立をあおるのは望ましくない。国全体としてバランスがとれた農業政策を安定的に進めるためには、都市と農村の相互理解が不可欠だ。農村で深刻な米価の大幅な値下がりや、後継者不足、競争原理の導入に対する不安が、都市部に正確に伝わっているのだろうか。経営規模の拡大や情報技術(IT)を駆使したスマート農業の導入が思うようにできない高齢農家の苦悩は理解されているのだろうか。

 相互理解の努力は農村だけの課題ではない。政府や自治体の役割も大きいし、何よりもそれぞれの政党や政治家に相互理解の架け橋となる強い自覚が必要だ。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

最新記事