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機能性表示食品がけん引へ  安定期に入る健康食品市場   飯塚智之 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主席研究員

2020.12.15

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機能性表示食品がけん引へ  安定期に入る健康食品市場   飯塚智之 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主席研究員の写真

 コロナ禍で健康に改めて向き合う機会が増え、外出の自粛による在宅時間の増加など、新しい生活様式に伴うストレス、運動不足による体重増加をはじめ身体上、精神上に抱える悩みが増える中、その対処法の一つとして注目されるのが食品である。

 特に新型コロナウイルス感染症の予防策として免疫機能に対する関心が高まり、栄養バランスの取れた食事、良質な睡眠、適度な運動の大切さが再認識されている。腸内環境と免疫機能の関連についての認知の広がりを受け、発酵乳や納豆、キムチなどの発酵食品の需要が高まっている。

 食事では不足する栄養素を強化した食品や、特定の機能を期待して摂取される食品についても全体的には需要は好調であり、その形態については、飲料や加工食品などの通常の食卓で料飲される形のものから、錠剤やカプセル、粉末などのいわゆるサプリメントと呼ばれる形状のものまで多彩である。

 その中でも近年、活発な展開が見られるのが機能性表示食品である。矢野経済研究所の調べでは、2018年度の市場規模は22405000万円、前年度に比べ25.3%伸長しており、その後の19年度、コロナ禍の20年度も市場は拡大し続けている。

 特にコロナ禍で健康上の悩みが露見する中で、睡眠やストレスへの対策を機能としたものや、中性脂肪や体脂肪、お腹周りの低減など"コロナ太り"対策が期待されるものや、高めの血圧を低減する機能を持つ機能性表示食品が好調に推移している。

機能性表示食品の「免疫」表示が実現


 業界内では長く、免疫機能についての機能性表示食品の発売は不可能と言われていたが、キリンホールディングスの乳酸菌「プラズマ乳酸菌」を使用した商品が、機能性表示食品制度の「健康な人の免疫機能の維持をサポート」に関する表示で初めて消費者庁に届け出が受理され、キリンホールディングスや傘下のキリンビバレッジ、またグループ会社となったファンケルから、11月から順次発売されている。(写真:プラズマ乳酸菌使用の商品

 機能性表示食品は、事業者が科学的根拠を基に届け出た機能性表示の内容を基に、消費者に商品の機能を伝達することが可能であり、消費者は健康上の関心や悩みに適した商品を選択することができる。

 機能を表示できる点では消費者庁の許可制である「特定保健用食品」も制度として存在しているが、許可実績のある整腸や生活習慣病予防関連など以外の新しい機能(保健機能)がなかなか認められず、事業者は特定保健用食品よりもコストやハードルが低い機能性表示食品での商品展開に傾斜しがちである。

 実際に機能性表示食品は、現代人が多く悩みを抱えるストレスや睡眠など多彩な健康機能への対応が見られ、中高年齢層を中心に市場が拡大している。

 一方、健康機能に対する素材・成分の作用機序(薬理学的効果を及ぼす仕組み)など、科学的根拠が必ずしも明らかにはなっておらず、あるいは制度上、機能性表示食品や特定保健食品としての展開は難しい素材・成分を含有したものについては、"健康食品"として販売されている。

 錠剤やカプセル、粉末などサプリメントの形状の、健康機能が期待される食品の市場規模は、近年拡大を続けているものの成長性は緩やかである。矢野経済研究所の調べでは、18年度は86143000万円、前年度に比べ1.9%増えた。現在集計中の19年度は、横ばいか微減になったとみられる。

健康食品から機能性表示食品へシフト


 機能性表示食品の市場規模は拡大を続ける一方、いわゆる健康食品の市場が軟調で、市場を押し上げるに至っていない。矢野経済研究所は毎年30代以上を対象にインターネット消費者調査を実施し、健康食品の摂取状況を確認しているが、健康志向が高まる一方で、健康食品を摂取する人の比率は「概ね常時摂取している」層が3割前後、「必要に応じて摂取する」層を含めても4割前後の水準で、近年大きな変化がみられない。

 これらのことを総合すると、一定の消費者層の中で、機能が必ずしも明確ではない「健康食品」から、機能が明確な機能性表示食品へのシフトが起こっている。

 機能を付与、または強化した一般食品が拡大し、食品の生理機能の解明も進んで発酵食品など自然由来の食品の健康への寄与が改めて見直される風潮も強まって、健康のために摂取する食品が多様化し、すみ分けも進みつつあるとも言える。

 高齢者人口の増加、健康長寿への関心の高まりなどから拡大が期待されている健康食品市場は、成長基調から安定市場へと移行しつつあり、さらに健康志向の食品が多様化する中で、機能が明確な機能性表示食品が伸長する一方、それ以外の健康食品については厳しい時代を迎えている。

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