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暮らすように旅をする  小島愛之助 日本離島センター専務理事

2020.11.16

暮らすように旅をする  小島愛之助 日本離島センター専務理事の写真

 島根県隠岐郡海士町は、島根半島の北約60㌔の日本海に浮かぶ隠岐諸島の島前にあり、島前三島の一つである中ノ島を主島とする1島1町の自治体である。地方創生のトップランナーとしても名高い自治体であるので、ご存じの方も多いのではないだろうか。

 隠岐諸島は聖武天皇の御代(724年)以来、長らく遠流の地であり、中ノ島にも小野篁や後鳥羽上皇などが配流されている。

 この中ノ島は地下水が豊富であり、ダムに頼らないでも飲料水には事欠かない。日量約400㌧の湧水量を誇る「天川の水」は、奈良時代の高僧行基上人が隠岐行脚の際に「天恵の水」と名付けたといわれており、環境省の名水百選に選ばれている。

 島前三島の他の2島、西ノ島や知夫里島には水田がないが、中ノ島には100㌶ほどの水田が現存し、島前三島の需要を賄えるほどコメの生産量が多い。

 隠岐諸島は2015年にユネスコ世界ジオパークに認定されており、中ノ島にもいくつかジオサイトが存在している。先ほどの「天川の水」もその一つであるが、島の東海岸にある景勝地である「明屋海岸」は、溶岩のしぶきが降り積もってできた赤褐色のスコリアと呼ばれる火山噴出物が露出した断崖を持つジオサイトの一つである。

 さて、隠岐諸島ではスルメイカのことをシマメと呼び、冬の一番おいしい時期のスルメイカを「寒シマメ」と称しているが、この時期のシマメは肉厚の身だけでなく、肝にも脂ののった旨みが豊富にある。

 その肝を醤油に漬け込んだ肝醤油と新鮮な身を使った逸品が「寒シマメ肝醤油漬け」だ。中ノ島の玄関口菱浦港にある「船渡来流亭」では、この肝醤油漬けをご飯に乗せた「寒シマメ漬け丼」(写真:筆者提供)が人気メニューとなっている。

 ところで、隠岐諸島は、いずれも火山活動によって形成された島々であるので、ジオパークに認定されていることからも分かるように各島に絶景と呼ばれる名所を有している。島後の白島海岸、浄土ヶ浦海岸、ローソク島にはじまり、知夫里島の赤壁、西ノ島の国賀海岸まで枚挙にいとまがないだろう。さらに、後醍醐天皇や後鳥羽上皇など配流された高貴な方々に所縁の地を含めると、まさに見どころ満載の地域ではないだろうか。

 ウィズ・コロナの時代からポスト・コロナの時代にかけて、私たちが経験していくことになるであろう「新たな日常」においては、短期滞在型の団体旅行には慎重にならざるを得なくなり、家族や友人など少人数で旅行し、周辺地域を含めて長期間滞在する楽しみ方が志向されることが十分に予想される。

 どこか1カ所を拠点にして、スーツケースを置いたままで、名所を巡る「暮らすように旅をする」スタイルが好まれるような時代が来るとすれば、隠岐諸島は間違いなく選択肢の一つに挙げられるのではないだろうか。もちろん、隠岐諸島訪問の際には、「寒シマメ漬け丼」をお忘れなく。

(Kyodo Weekly・政経週報 2020年11月2日号掲載)

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