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どこに住みますか?  沼尾波子 東洋大学教授

2020.06.15

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どこに住みますか?  沼尾波子 東洋大学教授の写真

(写真はイメージ)

 新型コロナウイルス感染拡大防止で、「3密」回避が求められ、多くの人が通勤・通学を控え、「おうち時間」を過ごす日々が続いた。大都市圏では、感染ルートを追えないケースが増えるとともに、危機感が強まった。

 「3密」という感染リスクからやや縁遠かったのが、中山間地域などのいわゆる人口低密度地域であろう。むろん、首都圏からの「コロナ疎開」を通じた感染への懸念や、地域の会合が感染拡大につながるケースを心配する声もあった。

 しかし、通勤・通学や買い物を通じて不特定多数の人々と接することになる大都市とは異なり、域外との直接的な接触を避けて生活している限り、ウイルス感染のリスクは低いだろう。

 日本では、首都圏・中京圏・関西圏の三大都市圏に、全人口の5割以上が集中する。人口密度などを基準に国土を区分した人口集中地区とそれ以外とを比べると、人口集中地区は全国の33%程度の面積を占めるにすぎないが、そこに人口の67%が居住している。とりわけ首都圏への人口一極集中は著しい。

 だが、今回のコロナ禍は、こうした人の流れに新たな動きをもたらすのではないだろうか。

 5月15日、内閣官房は地方移住に対する意識調査の回答を公表した。そこでは約半数の回答者が地方移住に関心を持っていること、また地方出身者の方がその意識が顕著であり、若い世代において、こうした傾向がみられることが示されていた。

 調査自体は2月に実施されたものであり、今回のコロナ禍で、地方志向の流れはさらに加速する可能性もある。

 リモートワークを導入する事業所が増えたが、場所を選ばない働き方が広がっていくと、人々の居住選択の形は今後、多様化することが考えられる。

 販売先を失った生産者を支援するために、クラウドファンディングや、ネット通販によるつながりを構築する取り組みも行われた。直接対面せずとも気持ちがつながることで、モノや情報やお金の流れが生み出せることを、身をもって感じた人も多い。

 規模の経済性を前提とした機能の集約化は、感染症や自然災害などのリスクに、脆弱であるという面も示された。場所を選ばない働き方や、暮らし方が選択肢としてリアリティーを持ち始めるとき、地方の人口低密度地域での暮らしを考える人々も増えていく可能性が高い。

 もちろん、新たな仕事と暮らしの選択肢が各地で広がりを生むには、そのための環境が整っている必要もある。高速ブロードバンド通信環境の整備は言うまでもなく、住居の確保、仕事の創出、そして地域コミュニティーと域外の人々をつなぐ人的ネットワークなど、これまでつながりづくりに取り組んできた地域に、新しい流れが起こりそうだ。無論、そこにはサプライチェーンの再構築を支援する取り組みも必要である。

 コロナ禍をきっかけに、多様な地域の暮らしや仕事を見つめ直すきっかけが生まれることを期待したい。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年6月15日号掲載)

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